アホ新世界について

ある日ふと『アホ新世界』ってめちゃくちゃ万博プロパガンダじゃない?と思ったのでそれについて考えていることを書きます。何をいまさら!って話ではあるんですが、まあ〜そうだよね〜と流しているといつしかその状態が当たり前になって認識が薄れてしまうから、ちゃんと再確認しながらエンタメを楽しんでいこうという目的です。

 

また当たり前ですがこの楽曲は関西ジュニアが作詞作曲編曲している訳ではなく楽曲を提供している音楽家がいて、その音楽家さんはジャニーズ事務所のエラい大人に楽曲を発注(もしくはオーディションによって選考)されて制作しています。プロパガンダだと言いましたが、関西ジャニーズJr.のメンバー個人や制作に関わった音楽家個人の方の思想に触れるものでは勿論ありません。

記事を公開してから想像以上の方に読んでいただき、修正が必要な部分がありましたので追記を加えています。ご指摘ありがとうございました。

 

『アホ新世界』とは

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このダイジェストの最初の曲です。作詞は川島亮祐(NoisyCell*1)、作曲編曲はサクマリョウ(NoisyCell)。こちらのお二人はAぇ! group『Break Through』、時系列的にはアホ新世界の後だけど関ジュ全体曲『NO LIMIT』にも楽曲提供されています。

アホ新世界の初披露は2020年11月のドリパビ*2なので比較的新しい曲。最近はユニットごとの新曲が多かったですが、この曲はあくまでも関西ジュニア全体の曲です。ちなみに読み方は「アホシンセカイ」ではなく、「アホーニューワールド」。通天閣の下に串カツ屋が立ち並ぶ大阪の代表的な繁華街「新世界」と「a whole new world=今まで見たことないような新しい世界」を掛けています。「アホ」という関西弁も入って大阪っぽさ全開のタイトルです。洒落を解説するなんてどんだけ無粋な行為かと思いますが念のため。

 

このダイジェストを見てもらったら分かりますが、最初の歌詞から「なにわ、かんさい、Aぇところ!」と3ユニのグループ名が盛り込まれ、関ジャニ∞ジャニーズWESTを知ってる人なら元ネタが分かるようなオマージュがたくさん詰め込まれています。まず登場の演出愛の奴隷が一瞬頭をよぎった。もはや関ジャニ∞ジャニーズWEST、関西ジュニアの要素をコラージュしたみたいな曲。私はジャニーズ自体最近好きになったばかりで楽曲にもあまり詳しくないけれど、それでも「なんか聞いたことある気がする……」のオンパレード! 引用元に気付けると楽しいし、曲中にセリフもおふざけのパートもあっていろいろと盛りだくさん。分かる範囲でまとめてみたけどざっくりこんな感じです。

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2020年7月のドリアイから関ジャニ∞ジャニーズWEST、関西ジュニアを「関西ジャニーズ」としてまとめる意識が強いような気がしていたけど、それを表しているかのような曲だなあと思いました。関西ジャニーズの伝統は関ジャニ∞からジャニーズWESTへ、そして関ジュへ受け継がれていて「関西ジャニーズ」という1つの流派があるのだという物語を共有するのにとても適している。その割にはジャニーズWESTの要素が少ないから制作側としては関西ジャニーズの大きな物語を意図してはいないんだろうと思うけど*3、「家族感」*4が好きなオタクは深読みするものなので。楽曲を聞いていたら元ネタがわかるし、それが分かる自分は関西のジャニーズのことを好きで追ってきたんだな~とオタクのアイデンティティにも刺さるようにできている。

 

ただ1つ気になるのは、関西ジャニーズを強調する割には同じく関西出身ジャニーズであるKinKi Kidsのネタはまったく出てこない*5。KinKiは関西ジャニーズJr.という部門が設立される前にデビューしていたからですか?大阪ではなく兵庫と奈良出身の2人だからですか?エイトやWESTや関ジュに比べてコテコテの関西ぽさが薄いからですか?TOKIOの城島リーダーもV6の岡田くんも出身だけで言えば関西だし、King&Princeの平野くんも永瀬くんもSnow Manの向井くんも関ジュにいたどころかメインだったよね…?となると「関西ジャニーズ」って一体なに…???*6

 

関ジャニ∞は関西ジャニーズJr.という組織の中から初めてデビューしたグループで、後輩たちの面倒もよく見てきたし、現在進行形でプロデュースもしているし、その雰囲気が色濃く受け継がれていることは事実だと思います。関西を拠点とした活動が長い、また現在も関西で活動しているメンバーたちの特別な絆があるとも思う。

しかし実際はきっぱりと東京!関西!と分けられるものでもないという中で、ドリアイは関ジャニ∞ジャニーズWEST、関西ジュニアを「関西ジャニーズ」という大きな括りでまとめることを印象付けた。関西色が強い3組は公式的な括りなんてなくても元々3つまとめて「関西」として認識されてはいたけど、同じイベントで共演(バックではなく共演)することでそれがより分かりすく提示されたのではないかと思う。

分かりやすいことは、エンタメコンテンツを売り出す事務所側も、受け手であるオタク側、とりわけ今まで関西のジャニーズのあれこれに詳しくない人々にも都合がいい。そして何より「関西がひとつになって発展する未来に向かっていく姿」は大阪府が主導する大阪・関西万博2025との相性がめちゃくちゃ良い。

 

特にこのアホ新世界はタイトルの洒落「a whole new world=今まで見たことないような新しい世界」も「未来の中心はココ」という歌詞も大阪の発展を明るく想起させる。それを「太陽だって眠るのを忘れるような」とさらっと「太陽」という大阪万博の象徴的なワードを歌詞に入れて、明るい未来は2025年の万博(と都市開発)の成功によって達成されるというイメージに繋げていく。しかも明るくポップで楽しい楽曲だから普通に聞いたら政治的でもなんでもない。めちゃくちゃ効果的なプロパガンダじゃないですか?

 (追記:「関西ジャニーズ」って単なる出身地ではなくて、松竹座を活動拠点とした関西ジャニーズJr.として活動していたかどうかなのでは?とご指摘いただいたのですが、その通りだと思います。公式プロフィールの出身地だけで言ったらジャンプの高木くんも大阪だし、なにわの大橋くんは福岡だし、キンプリの平野くんは愛知だし。元の文と矛盾するかもしれませんが、私も関ジャニ∞ジャニーズWEST、関西ジュニアの3組をまとめることに対しての違和感はありません。受け継がれてきた歴史は大切なものだと思っています。ただそれを前面に出し、「関西」として強調することは万博を盛り上げることと相性が良く、利用されやすいものであるということを主張したかったです。)

 

関西ジュニアと大阪万博

私が関西ジュニアをゆるく追い始めたのが2019年の夏なのでそれ以前のことは分からないのですが、公式として本格的に万博に関わってるなと最初に感じたのは2019年冬に大西流星くんが万博の有識者会議の委員となってプレゼンをしたときでした。夏にはなにわ男子がGO!GO!EXPOのアンバサダーになっていたけどそこまで深く考えていなかった。それ以前もなにかあったかもしれないけど知らないし気付いていなかったです。普通に考えてジャニーズ事務所が万博に絡まないわけないんだけどね。

そのあと2020年1月の京セラドームで『関西アイランドプロジェクト Road to 2025~未来に向かって~』が始動するとのお知らせがあり、その第一弾としてAぇ! groupの『Zepp Live STARTING NOW413』が発表*7。413というのは2025年の大阪万博が4月13日から始まることに因んでいるもので、5年後の万博に向けてスタートを切ろう!ということです。

その後コロナが流行して世界が一変し、7月に開催された関ジャニ∞ジャニーズWEST、関西ジュニア合同配信ライブのタイトルは『Johnny's DREAM ISLAND 2020→2025 大好きなこの街から』。ドリームアイランドって夢洲?関西アイランドってそういうこと?と私はそこで初めて気付きました。関西アイランドは2018年1月あけおめコンサートが初披露で、大阪への万博誘致決定は2018年11月。万博が決定しなくても違和感ないし、決定したら万博にも合う曲がここで生まれているのすごいな……。さすがにこれは偶然だと思うけど意図的だったらおそろしい。初披露のときに万博の話って少しでも出てましたか?知っている人がいたら教えてください。(追記:『関西アイランド』の「アイランド」は、2016年12月から帝劇の『ジャニーズワールド』が『ジャニーズアイランド』に名前が変わったことを受けて用いられたのでは?とご指摘いただいたので恐らくそうだと思います。偶然というか万博とは別の文脈でよかった。*8 

そのドリアイでは万博公園太陽の塔の前にステージが組まれ、関西ジュニアの単独披露曲であるMy Dreamsは夢洲でのパフォーマンスが映像として使われた。まだ何もないけれど2025年には万博の会場となる夢洲の広い大地と、これからアイドルとして成長する関ジュたちを重ねるような演出*9。そういえばなにわからAぇ風吹かせますの事前番組も夢洲で撮影されていたな。どちらも明るい未来が期待されている夢洲と関ジュの相性はとても良いらしい。

 

この夢洲は万博の会場にもなるし、大阪府・市が推し進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)の拠点でもある。IRについては莫大な利益が期待される一方で、ギャンブル依存症の増加やカジノの国際競争に巻き込まれて地域経済が衰退する等といった批判もされている。大阪では万博開催前の開業を予定していたが、世界的なコロナ禍で万博前の開業は断念。それ以降計画は進んでいない。

私はこの程度の大まかな認識しかないけれど、とにかく夢洲はいろんな思惑が飛び交う非常に政治的な場所であることはわかる。しかしそこにアイドルが立ってMy Dreamsを歌うと、難しいことは抜きにしてなんとなくアイドルもその場所もまとめて発展していくポジティブなイメージを抱きたくなってしまいません?

そもそも万博とIRはセットで大阪府・市の政策の要で、マイナスイメージの大きいIRを万博という文化面の事業と抱き合わせることによってプラスイメージに変換したいのでは?と素人の私でも勘繰ってしまう。その万博事業に関西ジュニア(というかジャニーズ事務所)ががっつり関わっているわけです。

そんな万博を意識したドリアイが終わって8月~9月にAぇ! groupとLil かんさいのzepp振替公演があり、11月には『Kansai Johnny's Jr. DREAM PAVILION』という超万博意識の強いタイトルのコンサートが開かれ、Aぇ! groupの公演ではいろんな国をモチーフにしたジャニーズ楽曲(+マツケンサンバ*10のメドレーも披露された。YouTubeのダイジェストでちょっと見れます。

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私はAぇ以外の事情については詳しくないけれど、Aぇは関西ウォーカーでいろんな国の文化を紹介する連載があったり、レギュラーのバラエティのコンセプトも万博を意識した仕事が特に多いような気がしている。1つ1つのコンテンツは面白いし楽しいのだけど、万博をこんなにずっと意識されると知らずのうちに万博を楽しみにしている気持ちが固定化されてしまいそうで怖い。

 

万博を楽しみにすること自体は別に悪いものではないのだけど、楽しみにする気持ちが万博開催に関する様々な問題を見ないようにさせてしまいそうで気をつけなければなと思う。

万博整備のための資金となるIRで搾取されるのは誰か?夢洲までの地下鉄延伸の資金は?労働力は?現代の奴隷制度だと批判される技能実習生制度で賄うのか?東京オリンピックの新国立競技場の建設現場では過労自殺に追い込まれてしまった人がいたが似たようなことが起きるのではないか?再開発に伴うジェントリフィケーションの問題は?そもそもコロナの混乱の中で万博やIRの計画はうまく進むのか?そんな未来の話より今日も大阪は変異株の感染者が増えていて、病床も逼迫して救急車の緊急搬送先も見つからなくなっていると聞くけど大丈夫なんですか?

 

アイドルは楽しいところだけを切り取って見せてくれるものでいいし、そうであってほしいけれど、社会問題はそうはいってられない。残念だけどアイドルも私たちも同じ社会の中で存在している。「推しと同じ時代に生まれてよかったー!」は逆に「推しの社会と自分の社会が切り離せなくてつらい!」でもある。

 

新世界という街

大阪への不安ばかりになってしまいましたが、話を関西ジュニアの楽曲に戻します。『アホ新世界』というタイトルなので、新世界という街についても少し考えてみたい。

おそらく関西人以外の人が「大阪」と聞いてイメージする景色はグリコ看板の道頓堀か、USJか、大阪城か、万博公園太陽の塔か、通天閣とデカいフグの提灯があった新世界ではないかと思う。関ジャニ∞『TAKOYAKI in my heart』という超コテコテ大阪ソングのMVも撮影された「大阪」の象徴的な街、新世界。ドリアイの最後に流れた大阪観光PR映像でもなにわ男子がたこ焼き食べてた。

 

新世界の街は1903年の第5回内国勧業博覧会*11の会場となったことから始まる。その会場跡地の東半分を大阪市、西半分を大阪土地建物株式会社に分割して払い下げ、大阪市の方は公園と動物園、民間の方は1912年に通天閣、遊園地ルナパークが開業して大阪の新名所「新世界」になったらしい。新世界というのはこのとき付けられた繁華街としての名前で正式な地名ではない。住所として正しいのは「大阪府大阪市浪速区恵美須東」なので、関西人以外の人からするとややこしい話だと思う。

遊園地ルナパークはいまいち人気が出なかったらしく1923年に閉園。第二次世界大戦中は初代通天閣が金属類回収令による鉄材供出のために解体され*12、街も大阪大空襲で被災。戦後はジャンジャン横丁がまず復興し、2代目通天閣が開業。高度経済成長期は日本三大ドヤ街である西成・あいりん地区(釜ヶ崎)が隣接していることもあり街のイメージが悪化する等いろいろあって*13繁華街としての人気は低迷。2000年頃からは「大阪名物串カツ屋」*14が増加し、ド派手な外観の店舗がそれまでの寂れた繁華街のイメージを次第に変化させていったらしい。近年は外国人観光客も多く、若者には昭和の名残あるレトロな下町風情が人気を呼んでいるとかいないとか。

近隣の地区ではあべのハルカスが開業し*15、今年6月には星野リゾートの建設工事が始まるなど再開発の期待が高まっている一方で、再開発に伴う問題も同時に抱えている複雑なエリアでもある。*16 

 

最近炎上した「新今宮ワンダーランド」は新世界ではないけれど近いエリアの話ではある。大阪市電通新今宮*17のエリアブランディング事業を委託して、PRということを巧妙に隠しながらホームレスとデートしたnoteがバズった結果PR案件だったことが発覚してその内容が炎上。「新今宮ワンダーランド」事業はスラムツーリズム、ジェントリフィケーションを促進するものだと批判された。

日雇い労働者、ホームレス、貧困*18とそれらに対する福祉支援のイメージが強いが交通アクセスの良い土地である新今宮エリアは、今後も都市のイメージアップが図られていくであろう。*19

もちろん誰もが安全に暮らせる魅力的な街になっていくのは歓迎されるべきことであるが、重要なのはそのやり方であることは言うまでもない。新今宮エリアは江戸時代から旅籠や木賃宿が立ち並び、それが寄せ場となって*20日本の高度経済成長やバブルを支えてきた。そのような街の歴史やそこでなんとか生活してきた人々を一掃することが望ましいわけがない。新今宮エリアのまちづくりは現在進行形で議論されている。*21 

 

 

新世界から離れて新今宮の話になってしまったが、私は新世界と聞くと天王寺動物園新今宮のエリアも一緒にイメージしてしまう。私は関西人ではないので認識がガバガバなことは承知しているが、実際に新世界に観光に行った際に「隣接する西成は危ないと聞くから知らずのうちに迷い込まないよう気を付けよう」と地図を確認した記憶がある。だからアホ新世界の「新世界」という文字を見ても私の頭の中にはそのエリアが思い浮かんでしまい、新今宮のことを思うと例の記事の炎上、まちづくりと福祉支援の問題が頭をよぎる。アホ新世界のタイトルの「新世界」が固有名詞の「新世界」を指していないことなんて分かっているけれど、その都合よく言葉だけ使われている感じに対しても思うところがあるし、大阪ぽいものを表層的に切り取って明るい未来(関西ジュニアの勢力拡大?大阪の発展つまり万博の成功?)を歌ってそれでいいのか?!と思ってしまう。いやアイドルソングだからそれでいいんでしょうよ。自担かわいいし。いいんですけどね。そういやドリアイの映像制作・企画協力も電通*22だったなあ。

 

(脱線)山田亮一が描く新世界

めちゃくちゃ話が脱線しますが、私はハヌマーンという大阪のロックバンドが好きでして、そのバンドに『ポストワールド』という新世界をモチーフにした楽曲があります。接頭辞"post"に"world"が続き、英文法としては間違ってるんでしょうけどタイトルを意訳すると「新世界」です。バンドで作詞作曲とギターボーカルをしていた山田亮一のブログで歌詞が見れるので、アホ新世界で持ち出される「新世界」と大阪の人間が描く「新世界」の違いを感じながら読んでほしい。あとサブスクでも聴けるようになったから聴いてほしい。この曲は活動を止める前に枚数限定で出したアルバムにしか収録されてなくて、CDはプレミアついてるし聞くのに一苦労だったんだけど今は合法手段で聞けるから私は超うれしいです。

 

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ポストワールド

ポストワールド

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歌詞を一部引用します。

新しい世界は動物園と物乞いと串刺しの畜肉を悪い油で揚げる匂い

Aメロ最初の歌詞からこれ。天王寺動物園と、西成あいりん地区が近く、「大阪名物串カツ屋」が立ち並ぶ独特なにおい。

虚空を怒鳴ってる老人と 聞こえないふりの観光客と 読んで字の如く広告塔 貸し春屋の招き猫の声

サビの歌詞がこれ。読んで字の如く広告塔というのはまさに言うまでもなく通天閣で、貸し春屋の招き猫の声というのは飛田新地(飛田遊郭の名残のグレーゾーン風俗街)の「遣り手婆」と言われる人の声かもしれない。このサビの歌詞だけでも新世界という街周辺の混沌具合が伝わってくる。

 

山田亮一はハヌマーンが解散したあとにバズマザーズというバンドを組んでいて、今は活動しているんだかしていないんだか社会情勢的にできないんだか分からないけれど、そこでも『おー新世界』という新世界モチーフの曲を書いています。こちらも歌詞がバンドのHPで読めるし、曲はサブスクで聴けるし、YouTubeで見れる。

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ポストワールドとは一転、堂島孝平の『葛飾ラプソディー』(こち亀エンディング曲、小島健くんも好きらしいよ)のオマージュも取り入れながらノスタルジックな雰囲気の一曲。タイトルはパリのシャンゼリゼ通りをモチーフにした『オー・シャンゼリゼ』に由来すると思われる。新世界の街はパリやニューヨークの繁華街を模して作られている*23からそこに掛けているんだろうけど芸が細かいな。

 

豹柄のトップスのオバハンが言う

「辛い時こそ人生笑うベキや。だからこの町の人間は皆、いつも笑顔や」とやっぱり笑って

歌詞には人情的な一説もあるけれど、アホ新世界で出される「人情」とはまったく印象が違うから面白い。具体的な描写があることもそうだし、ポストワールドとは別の視点で新世界を捉えているから人間の感情が一筋縄ではいかないことも描いてくれているみたい。ポストワールドでは新世界について散々な歌詞を書いてるものの、最後には童謡『赤とんぼ』のワンフレーズがあることで吐き捨てきれない街への愛着のようなものを感じたけど、おー新世界はその愛着が前面に出ているなあと個人的には感じています。

若い頃を過ごした街への反発と郷愁は多くの人が持っていると思うから、私みたいな新世界どころか大阪になんのルーツもない人間もノスタルジックな気持ちにさせられてしまう*24。「人情」は単語にすると一言だけど、いろんな含みがあるものだよな~ということを新世界にまつわるこの2曲を聞いていると思う。 

 

ハヌマーンバズマザーズの紹介みたいになってしまったけど、アホ新世界の「新世界」はただ言葉だけが使われているということを強調したかった。曲中で実在する場所として新世界の話は出てこなくて、大阪っぽい地名である新世界と「新しい世界」というなんか良さげな言葉だけが切り取られ使用されている。作詞作曲のお二人は千葉県出身らしく、関西出身ではないから描ける「大阪のイメージ」があるんだろうなと私は思っています。

 

おわり

アイドルが明るい未来に向かっていくのだという歌を歌うことが悪ではないが、明るい未来を作ろうとする権力側(権力側の目指す「明るい未来」は誰にとっての明るい未来なのかという点も疑問ではありますが)の暴力を覆い隠すプロパガンダに使われるのは良いことではない。

万博関連で今応援しているアイドルを見れる機会が増えたのは事実だし、万博の盛り上がりと共に応援しているアイドルたちも大きくなっていってほしい気持ちはもちろんある。日々の娯楽として享受しているコンテンツに政治とかプロパガンダだとか難しいこと考えたくない気持ちもめちゃくちゃ分かる。ただ社会を生きる一個人としては楽しい側面にだけ目を向けていてはいけないんですよ。万博に向けての動きと共に関西ジュニアが盛り上がるのは嬉しいけれど、万博それ自体と主導している主体については分けて考えなくてはいけない。そんなこと当たり前じゃん!と思うかもしれないけど、逐一言っていかないと気付かないうちに流されてしまいそうで私は怖い。アイドルはすごく魅力的で脳を狂わせる存在だってことを一番わかっているのはオタクだと思うので、それが悪い方向に利用されたとき最悪なことになるということは実感としてよくわかると思います。

 

特にこのコロナ禍で日々の生活は政治に直結しているんだってことをより実感したからそう思うのかもしれない。これを書いている現在はちょうど東京 大阪 兵庫 京都で3回目の緊急事態宣言の最中で、2回目の宣言時とは違って劇場も有観客公演の中止または延期の要請が出ているから、舞台もコンサートもバタバタと中止に追い込まれた。しかも23日の夜に発令して25日から適用だと言うのだから現場の混乱と失望するオタクたちが目に浮かぶ。1年前にも味わった無力感をまた感じていることに加えて、1年間何してた?こんな状態なのにオリンピックはやる気?という政府への怒りも沸いてくる。大阪に関してはイソジンや雨ガッパの件もあったし、2回目の緊急事態宣言を前倒して解除させてから変異株の感染が爆発していることを思うと「未来の中心はココ」と明るく歌われていることに不安を覚えてしまう。

 

繰り返しになるけど私は楽しくアイドルを見れる社会になってほしいし、好きなアイドルが政治家の人気取りや大衆の統治に利用されるのは良い気持ちがしない。しかしジャニーズ事務所という大衆芸能のドンは国民的であるからこそプロパガンダ利用されることを避けては通れないし相性がいいのは明らか。だからせめて、常に政治利用されることを意識しながらコンテンツを楽しみたいと思う。そんなこと考えながら楽しめるのか?*25とも思うけど、無批判にならないよう気をつけたい。大層なことはできないから、せめて考えることはやめないようにという自戒(とハヌマーンバズマザーズステマでした。 

*1:2020年11月末より活動休止中

*2: Aぇメイン公演が初披露で、その数日後になにわ男子の配信コンサートでAぇとLilかんさいもサプサイズ登場して披露

*3:追記:私がジャニーズWESTの楽曲に詳しくないのでWESTの要素に気付いていない可能性は大いにあるので話半分に読んでもらえると助かります。作曲編曲のサクマリョウ氏はTwitterで「仕掛けだらけ」と投稿していたので、純粋に楽曲を面白くさせるためにいろいろ引用したのだと思われる

*4:関西ジャニーズJr.の魅力を言うときに「家族みたいに仲が良い」「家族感」がメンバーからもオタクからもよく挙げられるけど、それって家族とは仲が良く素晴らしいもの前提の価値観だよなっていつも思う。家族みたいにメンバー同士の仲が良いことはもちろん良いことだとは思うけど、こういう小さなところから「家族=良いもの」という価値観が刷り込まれていくような気がしてならない。「家族=良いもの」の価値観が悪いわけじゃなくて、それが「家族だから仲良くあるべき、助け合うべき」みたいな方向に進むと苦しいよねという話。

*5:出てきてないと思うけどKinKiに詳しくないのでもしかしたら何かあるのかもしれない。ここ出てきてるよ!というのがあれば教えてください。

*6:追記:本章(?)最後の追記にて詳しく触れます

*7:なにわ男子もLil かんさいもコンサートのお知らせはあったもものどこまで万博関連か分かりかねるのでAぇの分だけ書いています。関西アイランドプロジェクトについても正門くんが紹介していたので。

*8:参考:JOHNNYS' World -ジャニーズ・ワールド- - Wikipedia

*9:まっさらな白い衣装を着たメンバーたちが青空の下でMy Dreamsを披露。歌っている映像だけではなく、間奏部分ではメンバーたちがわちゃわちゃしている映像も差し込まれいました。生配信版では龍太くん康二くんの声が入ってる音源が使われるミス(いやこれミスなの?意図的なの??みたいな物議も醸したけれど見逃し版では修正されていた)がありましたね。あと正門くんが合成。

*10:セトリは関風ファイティング→バイバイDuバイ→チュムチュム→Hello Broadway→JAPONICA STAYLE→マツケンサンバ。ジャニーズJr.ってマツケンサンバ使えるんだっていう驚きと発見がありましたね。この記事では話が逸れるので触れないけどドリアイもZeppもドリパビも最高で超たのしかったんだよ。

*11:大阪初の内国勧業博覧会で大盛況だったそう

*12:通天閣が鉄材供出のために解体される戦時中の日本やばいなと思ったけど、その前に近隣の映画館の火災が延焼して一部焼失しており、構造上の危険があったことと空襲の標的にされるとの懸念から供出に至ったとのこと

*13:1958年の売春防止条例によって隣接する飛田遊郭が表向き廃業し新世界も打撃を受けた。1961年には釜ヶ崎暴動が起こり、その後も定期的に日雇いの肉体労働者たちによる暴動が起こったことから治安の悪いエリアだとのイメージが定着。釜ヶ崎は1970年の大阪万博開催によるインフラ整備のために全国から労働者が集められた場所でもあった。 

*14:大阪の串カツは「だるま」新世界店の女将さんが肉体労働者のために一口サイズのカツ提供したことが始まりだとされているらしい

*15:ハルカスの開業は2014年だけど、同じく2014年CDデビューのジャニーズWESTがハルカスの屋上でデビュー会見やってるの今気づいた

*16:参考:新世界 | OSAKA-INFO新世界今昔物語 | 新世界公認ホームページ【the fit shinsekai】新世界のwiki

*17:釜ヶ崎、西成、あいりん地区、新今宮とあの一帯の名前がいろいろあるのも市町村編成の変化と共に街のイメージ向上を計ろうとして失敗してきた歴史を感じてしまう

*18:あと反社の事務所と違法薬物と風俗

*19:なんせ大阪市魅力推進創造戦略2025をベースに新今宮エリアブランディングの基本戦略が策定されているそうなので。

*20:寄せ場となった地域は1987年の大阪市第一次市域拡張の際に市域に含まれず、大阪市コレラによる衛生対策と治安維持のために禁止した木賃宿が存在できた地域(旧今宮村の一部、釜ヶ崎)である。それまでは一帯に存在した木賃宿スラムは内国勧業博覧会の開催と木賃宿の禁止によって一掃され、その逃げ場として隣接する釜ヶ崎に集中したらしい。逆に大阪市域に含まれるため木賃宿スラムが一掃され都市開発された方の土地が後に新世界になった。参考は釜ヶ崎のwiki

*21:参考:反ジェントリフィケーション情報センター シンポジウム「日本一人情のある街、西成がなくなる!?」にあたって大炎上した釜ヶ崎PRブログに見るまちづくりの本質 大阪市と電通による「新今宮エリアブランディング」の失敗の研究(1/6) | JBpress(Japan Business Press)

*22:電通は万博2025の共創パートナーでもある

*23:「新世界」という名前が正式に決まる前は「新巴里」と呼ばれていたこともあるらしい。通天閣のデザインはエッフェル塔凱旋門を真似ている。

*24:葛飾ラプソディーのオマージュが入っているのもずるいし、山田亮一が歌うからこそのところもある

*25:楽しめなくなったら自分が離れるしかないし、そうならないでくれ~~~と事務所や自担のバランス感覚を信じるしかない。無力。